主宰の上田哲也さんと奥さまの瞳さんに、nonoについてじっくりお聞きしたインタビューから、
「Kimono Factory nonoのしごと」についてお伝えするコラム、今回はその2回目です。
テーマは「Kimono Factory nonoのものづくり」。
********************************************
14_「新商品掲載情報」
nonoの新商品のお披露目は、いつも突然だ。
公式サイトの「新着情報」をこまめにチェックしているつもりなのだけれど、気づくと「新商品掲載情報」が更新されている。あわてて開いてみると、アウトレット商品や完売商品の再入荷のお知らせと同じ扱いで、「プリーツ袴パンツKnot」や「サッシュベルト帯 帯地date」が新発売になっていたりする。トップページのスライドショーには載っているけれど、これ、開発にものすごくエネルギーが要ったはず。もっと大きく取り上げなくていいの!?と、余計な心配をしたくなるのだが、一方で実にnonoさんらしいなとも思う。
リアル店舗でもネットショップでも、いろんな「ストーリー」で客の気持ちを掴もうとする売り方に出会う。この商品やサービスの生まれた背景は。開発の経過は。自慢のスペックは。ここが苦労したポイント…等々。確かにこの方法は効果的で、ついつい見入って聞き入ってしまい、特に欲しくもなかったのに買ってしまった…ということ、何回もある(後悔したり、しなかったりだが…)。
nonoのオリジナル商品は、どれも魅力的なストーリーを持っているはずだ。いきなり新発売にしないで、もう少し予告をすればいいのに、と、社長の上田さんに聞いてみた。
「予告すると発売日がきまるじゃないですか。それが嫌で嫌で」。
なんと…新商品というのはそういうものだと思っていたのだが。
「発売日を決めてしまってから想定外のことが起こったときに、その予定に合わせていろんな人に『急いでください』とお願いするようなことは、嫌なんです」。
例えば、nonoでは夏前に完成した夏ものは、すぐには発売されない。実際に自分たちでひと夏着てみて、ほんとうにこれでよいのか、自分たちの中で納得したいのだという。結果、夏の終わりに夏ものが完成する、といったことがおこる。「発売日ありき」ではなく、自分たちが納得できる商品だと確信できた時点でリリースしたいということだ。そして、「新商品のうち8割くらいは、僕の中では発表した直後から評価が落ちてくる」し、「だから次はこうしたい」と思うのだという。上田さんにお会いするときもの姿なことが多く、「だいたい、僕が着ているのはサンプルか試作品」なのだそうだ。ここまでしても、売れる売れないは、やってみないと分からない。
「『売れるから』と思って作ると、売れなかった時に理由がよくわからないんです。自分は売れると思って出したのに売れない。その価値観の差は埋められないけど、自分が着たいもの、欲しいもの、そして納得したものであれば、『自分が良いと思うんだから、売れなくてもしょうがない』。そう思って作るんです」
自分たちが着たいもの、欲しいものを出すという姿勢が一貫しているから、nonoの新商品リリースに仰々しい「開発ストーリー」は不要だ。
毎年発売の予定が決まっている商品がひとつだけある。Gritterだ。毎年秋口に発表されるnonoの看板商品は、「カラ雑巾を絞るようにして(上田さん)」デザインを起こすという。毎年このくらいの時期から、上田さんと瞳さんから「産みの苦しみ」ということばを聞くようになるけれど、一方である種の爽快な達成感もあるらしい。
「中高生の時のクラブ活動って、野球でもサッカーでも、しんどくても走るの嫌いでも一所懸命練習しますよね。やってる最中は確かに苦しいけど、やっぱり野球やサッカーが好きだし、うまくなりたいから頑張る。そんな感覚です」。
好きこそものの上手なれ。年々、Gritterのデザインは精緻に洗練されている。発売後すぐ完売する柄行も増えてきた。油断しないでもっとこまめに「新着情報」をチェックしなくては!この秋にお披露目される新柄を心待ちにしている。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/