きものが好きになると、夏ものに心惹かれるようになる…というのはあちこちで聞く話で、着はじめた当初は「この暑いのにとんでもない」と思っていた。が、昨年、曲がりなりにもひと夏をきもので通せたこと、体型をカバーできることに気をよくして、夏きもの、なかなかええやん、と思い始めた。
そんなとき、リユースきもののショップにディスプレイされた一枚に、目が釘付けになった。
藍色の宮古上布。きっと高いんだろうな…中古でもすごい値段がついてるもんねぇ…と値札を見て驚いた。わたしのお財布でも手が届く(新品の浴衣一枚分くらい)。しかも、ほぼわたしのジャストサイズ。手ごろな価格の理由のひとつはこのサイズだという。今どきの方には小さすぎるのだ。それと、少しだけ汚れがあるということだったが、気にならなかったので喜んで購入し、いそいそと着ている。味を占めて、リユースの夏物をあちこちで物色するようになった。内心、「夏は何を着ても暑い、だからきものでも一緒」というのはきもの好きの屁理屈だと思っているが、「上布」と呼ばれる麻のきものはやはり、どれもほんとうに美しい。それに麻素材ならなんとか家で洗えないこともない。さらにもう1枚、同じくらいの価格で見つけた宮古上布、そして能登上布。なるほど高温高湿度の日本の気候に合っていて気持ちがいい。
芭蕉布、というすばらしいきものがある。好きな方には釈迦に説法だが、沖縄のごく一部で織られている夏きものの最高峰。昨年、京都で開催された展覧会を見に行って、その力強さと途方もない手間暇、作り手の強い思いに感銘を受けたものだが、自分には関係ない話だと思っていた。
先日のこと、某フリマサイトで「芭蕉布」をうたった出品を見つけた。なんと、わたしでもなんとか手の届きそうな設定価格。あり得ないけれど…と、半信半疑ながら、繊維の組成を拡大してみたり、他の本物と比べたり。もしかしてもしかすると…と食指が動いた。どんな出自のものか、出品者に質問してみたところ、すぐ回答があった。お母さまの「終活」のために、あまり詳しくないお嬢さんが代理で出品したらしく、お母さまにたずねてくださったとのこと。ところが…「母に聞いてみたが、どうもあやしい。一緒に出品している帯は間違いなく芭蕉布なのだけれど、こちらは『芭蕉布もどき』なので価格を下げて再出品します」と。
この時点で止めておけばよかったのに、他の出品物がどれも確かなものだったこともあり、プライスダウン価格で買ってしまった。届いてみたら、やっぱり「もどき」。しかも夏物ですらなく、ごく平凡な薄手の単衣紬だった。少なくとも色柄が気に入ればよかったのだが…。冷静に出品写真を見なおすと、これは違うなという点もたくさんあったのに、「芭蕉布」に目がくらんでしまった。勉強代としては(わたしにとっては)、悔しくて臍を噛む値段だった。これならあの白麻の日傘が買えたのに…。情けなくて、傍から見たら喜劇で、100%わたしの責任だ。どの帯を合わせようかな、なんてウキウキしていたのだから救いようがない。
近道はない、ということだ。少しずつ学んで、痛い目にもあって、目を肥やすしかない。
それでも、「次こそきっと大穴(ホンモノ)を…!!」と心のどこかで思っているのも確かなのだ。危ない危ない。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/