20_ 日本一、色っぽいゆかた。

七月の声を聞くと、京都の街中には祇園祭の気分が漂いはじめる。

この時期の京都には多分、日本でいちばん多種多様な、ピンからキリまでのゆかたが揃っているだろう。最近はゆかたと夏きものの境目がゆるやかになっていて、絞りのゆかたや小千谷縮できもの風に装うひとも増えてきた。衿をいれたり、入れなかったり、足袋を履いたり、素足で下駄をひっかけたり。いろんなスタイルで楽しめるのは楽しい。男性のゆかた姿もずいぶん増えたように思う。老若男女問わず、ゆかた姿のひとにしかめっ面はいない。誰もが華やいで、少し上気した笑顔とセットだ。

百花繚乱の祇園祭、いちばん色っぽいのはどんなゆかたでしょう?

まず思い浮かぶのは、花街の方々。白地に紺のコーマ地のゆかたに、博多の夏帯(うす緑とか、ピンクとか)をお太鼓や後見結びにして、白い花緒の草履と白足袋、という姿をよくお見かけする。きりっと涼しげで、いかにもこなれた雰囲気だ。昨年とても印象的だった方は、お得意先へのご挨拶だろうか、団扇の入った紙袋を提げ、背筋を伸ばして寺町通商店街を足早に歩いていった。うだるような暑さの中、シンプルにまとめた黒髪のうなじがちょっと汗ばんで、同性のわたしでもほれぼれするような女っぷりを、ため息とともに見送ったものだ。

これを抑えて、祇園祭でいちばん色気があるのは、山鉾町の町衆の男たちのゆかただと思う。囃子方からいわゆる「保存会役員」とおぼしき方々まで、老いも若きも揃いのゆかた。町衆の誇りとセンスを象徴するのだから、どこの町内のデザインにも力が入っている。それぞれの山鉾にちなんだモチーフもあれば、驚くほどモダンな柄行もある。毎年デザインの変わる鉾町、ずっと同じデザインの鉾町。どれも趣向が凝らされていて見飽きない。とりわけ山鉾を背に男性が揃いで着ている景色、これはもうほんとうにかっこよくて、どこで見かけてもつい立ち止まって、目で追ってしまう。おじさま方の堂に入った着こなしの、なんと圧倒的で魅力的なことか。恰幅よく出たお腹の上に、きりっと締めた角帯が乗っかっていて、押し出しの良いことこの上ない。

街角からお囃子の稽古のコンチキチンが漏れ聞こえ始めると、京都生まれでもないのになんとなくこころが浮き立つ。山鉾が立ち、日々ゆかた姿の人が増えてゆく。わたしもゆかたと下駄の準備をはじめよう。

画像:祇園祭中nonoのビル前に建つ綾傘鉾。

奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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