23_ 夏帯の謎

絽綴れ、絽、紗、羅、麻帯。いわゆる「夏帯」と呼ばれる帯はたくさんある。少しずつ締められる時期が違うらしい。

ものの本やあちこちのwebサイトには、「正しい帯の選び方」とか「帯にも季節ごとに決まりがある」とか指南と蘊蓄が溢れている。「きものの季節感は一歩先取りが原則」とか、初心者はそれだけで混乱して気後れしてしまいそうだ。更に良くわからないのが、「博多献上」という帯。いろんな種類の帯を一覧にして、締められる時期を細かく「この時期が最適」と、カレンダーにしてる同じページに、さらりと「博多献上は一年中使えるので、初心者にもぴったり」とも書いてある。確かに平織の博多献上の帯はとても扱いやすい。その一方で、「紗献上」なる帯も市場には溢れている。え、じゃあ普通の博多献上の立場はどうなる?一体、何をいつ使うのが正解なの?

最初はいろいろ気にしていた。この帯は麻だから7月まで待とうとか、こっちは袷用だからもう来年だなとか。が、最近になって正直なところあんまり気にしなくてよいのでは、と思うようになった。というのも、実際にはあちこちのきもの屋さんで、「一応夏帯ですけれど、〇〇だから一年中使えます」とか、逆に「一応、単衣と袷の季節のものですけれど、◆◆だから夏でも大丈夫ですよ」とか、実にいろいろなエクスキューズを聞くからだ(〇〇には、「あんまり透け感がない」とか、◆◆には「色がきれいなブルー系」とかが入る)。今では、要は締める人自身に納得できる理由があればよいのだな、と理解している。nonoにも麻の八寸名古屋帯があるが、むしろこの帯を夏にしか締めないなんてもったいない。ざっくりとした麻地に、モノトーンでシンプルに意匠化された三日月が織り出されていて、秋のお月見、春の朧月夜、冬の玲瓏とした月、取り合わせ次第でいつだって使えそうだ。

夏の麻八寸名古屋帯「moon」。麻の帯ですが、季節感も無く一年中使えます。

何よりも、本人が快適に、楽しく身につけること。これ以上に大切なことはないのだが、ひとつだけ一応、気にしていることがある。「おしゃれというのは、他人の視線をデコレートすること」という発想(思想)だ。哲学者の鷲田清一先生の著書で読んだ一節で、大まかにいうと「見ている人への気配り」とでも言えば近いだろうか。当人が楽しく着ていればもちろんそれでよいのだけれど、例えば真夏にダウンジャケットは見るだけで暑苦しいし、真冬に薄手のワンピース一枚では見るほうも凍えそうだ。さらに積極的に、見る人の目を喜ばせることができたらいいいなぁ、と思う。素敵ねぇと褒められたい、というのともちょっと違って、季節の花やかわいい猫のように、見る人の視界に心地よいものが映るといいな、とでも言おうか。きものは季節感を大切にするから、洋服に増して人の視線をデコレートしやすいと思う。夏ならまず涼しげだとか爽やかとかいうことだろう。そう考えると、「夏帯」の基準はそんなに難しくない。

着ている本人がスキップしそうに楽しそうで、見ているひとがちょっと目を細める。そんな幸せな関係が生まれる着こなしをしたい。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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