25_ 今、着たいきもの。 ― Gritter 2024

新しいnonoのGritterを心待ちにしている人は多いだろう。もちろん、わたしもその一人だ。

さあ、今年も3つの新柄が揃う。

ここ数年、Gritterのカラー展開はモノトーンベース2(黒・グレー)+新色1の3色。今回の「+1」は、少しマニッシュな香りがして、針葉樹林の森を思わせる、深い緑だ。柄のデザインは社長の上田さん、そして色の展開を考えるのは奥さまの瞳さん。同じ色でも柄によって全くイメージが違うし、逆に同じ柄でも色ごとに違う表情を見せる。柄も、色も、目移りして困るのも例年どおり。

ひと足早く、新柄を見せていただいた。

尖頭(せんとう)

これまでにも増して精緻な線で描かれるこの柄は、12世紀から15世紀まで北西ヨーロッパで広まったゴシック建築(ノートルダム寺院、スペイン・トレドの大聖堂、ドイツ・ケルンの大聖堂などが代表的)の特徴のひとつ、「尖頭アーチ」に触発されて生まれた。文様の細かさゆえに、よりメタリックな質感だ。

昨年の「sun」をはじめ、上田さんが描くモチーフには西洋建築を想起させるものが多い。「建築そのものはもちろん、西洋の歴史的な彫刻、ステンドグラスなどにも惹かれます」。様々な建築をはじめ、西洋で作られた立体物を上田さん自身のフィルターを通して立体を平面に落とし込み、文様として形にしたいのだという。「日本人なのでね、平面にしたいんです」。

平和(へいわ)

「こんな時代なので、人生を、「生きる」ということを、真剣に考えました。穏やかな柄を作りたかったんです」。ひとつひとつ探してたどり着いたテーマは「輝き」「思い」「連なり」「穏やかさ」の4つ。こうして生まれた柄は、ストレートに「平和」と名付けられた。

最初は縞柄のきものを作ろうとしたそうだが、「柄が要るなと思って」ひとつずつ、テーマとそれを表現するモチーフを探していった。この柄を見ると、明治期に日本各地に建てられた帝室博物館や迎賓館など、当時の日本人建築家たちが真正面から手を抜かないで作り上げた、数々の西洋建築物を彷彿する。そして、これらの建築物を飾る様々なモチーフは遠くギリシャ・ローマからアジアを経てここまでたどり着き、今も大切に伝えられていること、これこそが「平和」なのだと感じる。

破創(はそう)

大島紬の伝統的な龍郷(たつごう)柄と、枡屋儀兵衛で生まれた本場大島紬の文様、Crackとの組み合わせ。上田さんのものづくりには、現会長であるお父さまの影響もあるかもしれない、という話も。なるほど、nonoの母体である「枡儀」の大島紬には、他にもモダンでシャープな印象の柄が少なくない。nonoの正絹八寸名古屋帯にもアレンジされたシャープでグラフィカルな文様と、トラディショナルな文様とが違和感なく共存して、男性にも相応しい。「ちぎれたような感じを出したかったんです」というこの柄には、「破る」と「創る」を合わせた「破創」という、いかにもnonoらしい唯一無二の名前が与えられている。

上田さんは毎年、生みの苦しみは大きい、大変なんです…といいながらも、Gritterは回を重ねるごとにテーマは深く、文様は精緻になってゆく。そして、毎回が完全なオリジナルだ。「僕は和柄を使うことはしません。例えば『青海波』という柄。長い時間を経て洗練され、これ以上アレンジする余地はありません。そういう完成されたものに手を加えて使うんじゃなくて、『今、自分が欲しい柄』を、ゼロから自分の手で生み出したいんです」。

Gritter を2024年の日本で着たくなる理由が、少しわかったような気がする。

新掲載は9月中旬頃とのこと。

実際に手に取って、色も、柄も、悩んでみてほしい。

◆2024Gritter一覧はこちらより(2024新柄は9月中旬頃掲載)


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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