28_筋肉も、きものも、裏切らない

重い腰を上げて数年ぶりに受診した人間ドック。淡々と浮かぶデジタルの数字。目を疑ったが、間違いない。体重が前代未聞、未曾有の領域に突入である。

…いや、うすうすわかっていた。特にコロナ禍に電車通勤から車通勤になったあたりから、お腹周り、二の腕や背中…きものがカバーしてくれるのを良いことに、見て見ぬふりをしていた。今年の新作のGritterの仕立てを依頼する際の、瞳さんからの「寸法にお変わりはありませんか?」というメールの一文を思い出す。体重はまだしも、血圧その他もいささか黄色信号。

一念発起して、パーソナルジムに通うことにした。確信はないが、黄色信号の項目も、なんとなくこの「大増量」と関係あるような気がしたからだ。まず3か月、必死でやってみようと決めた。

トレーナー氏は眉を剃ったスキンヘッズ、92キロの筋肉の塊。なかなかの強面だが、「ゴールは3か月後に体重が落ちていることじゃありません。一生ものの『運動習慣』が身につくこと、それがゴールです」と、甚だ筋の通った理念を持つ勉強家。この人ならと、週に2日、1回1時間のトレーニングが始まった。ボディメイクには筋トレ(無酸素運動)+有酸素運動が鉄則。トレーナー氏によると「もちろんやったほうが良いけど、途中でやめるくらいなら筋トレだけでいい」とのことだが、経験者によると「絶対有酸素運動もしたほうが良い。早く結果がでるとモチベーションも上がる」。何だったら続くかな?と考えて始めたのが、フラフープ。家の中でいつでもできるし、お天気も関係ない。何よりこの能天気さというか、ちょっと笑ってしまうというか、愉快な感じがとても良い。テレビを見ながら機嫌よく、ほぼ毎日10~30分。朝ドラ1本見終わるころには、身体が温まってうっすら汗をかいている。

開始から1か月半。現在の途中経過はというと、体重減は2キロくらいなものの、体型は明らかに変わってきた。体脂肪が落ちているということらしい。服の上からではわからないが、肩の線がシャープになり、ウエストは約10センチ減(フラフープと聞いて笑っていた友人たちは、この辺でみんな目の色が変わる)。トレーニング開始時、自重のみでも10回もできなかったスクワットは、フリーウェイトのバーベルの棒(20キロ)を担いで30回以上できるようになった。明らかに身動きが軽くなった。とはいえ、緩い食事制限とこの程度の負荷の運動では、すぐに「前代未聞の領域」から出るのは難しい。何年もかけてじっくり蓄えた脂肪だ。きものにカバーしてもらいながら、時間をかけて無理なく落としていけば良い。

そして、やっときものを着られる気候になってきた。

誂えたきものは雄弁に結果を語る。前幅は少し余り、下半身の背中心が右にずれる(!)。何より変わったのは姿勢だ。美しい着姿のためには、肩を落として肩甲骨を寄せ、胸を張ること、とよく言われる。何を着るかより、大切なのはまず姿勢だとも。日がな一日パソコンに向かう仕事なので、肩は内側に巻き、猫背になりがちだったのが、背筋が鍛えられたのか、背筋が伸びて胸が開くようになった。不思議なことに、自装がしやすくなって、しかも気崩れない。

「健康寿命」と同時に、「きもの寿命」も確実に延びている。慶賀、慶賀。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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