「鋭利なベーシック」。nonoのこのコンセプトをいちばん端的に具現化しているのはGritterのシリーズだろう。わたしは「前あき7分Tシャツ襦袢 Ready7」のブラック、ボルドー、チャコール、この三つの色はGritter同じくらいnonoのコンセプトに近いと思うし、またこよなく愛している。リリースを知った時には、うれしくて待ち遠しくて、画面のこっち側でガッツポーズをしたくらいだ。
ブラックはGritter以外のきものにもとても重宝している。そろそろ2枚目を買おうかと思うくらいのヘビーローテーションだ。黒い半襟は見慣れたきものの雰囲気を一変させる。例えば白襟だと清楚な花柄の小紋は、ライダースジャケットを合わせた柔らかなワンピースのような表情を見せる。
チャコールは、黒が勝ったきものにとても「使える」色。ブラックではきもの本体と半襟の色が馴染み過ぎてしまうようなとき、このチャコールがグラデーションになって、襟ときもの、両方の存在をきちんと見せてくれる。逆にブラックではちょっと強すぎるかなという時にこの色を入れると、きりっとした中にもやわらかさを感じられる組合せになる。今からの季節なら、例えば臙脂系の紬に合わせて、晩秋から初冬にかけての深い色の取り合わせを楽しむ。
ボルドーはシックな中にほんの少し可愛らしいニュアンスのある、大人の女性の色。これより暗ければ顔色がくすんで見えるし、これより明るいと幼い印象になりそうで、なんとも絶妙なnonoらしい色づかいだと思う。わたしは口紅を差すのが苦手で、メイクも手を抜きっぱなし。きものを着るときにはもう少しきちんとしたほうが良いとわかっているのだけれど、このボルドーが襟元にあると、そんなわたしの手抜きがほんの少しカバーされる(ような気がする)。黒地に白で描いた、むじな菊の小紋の襟元にこのボルドーをのぞかせて、白ベースの博多献上の半幅帯、襟に合わせた色の帯締め、それに白いレースの羽織、といった取り合わせが好きだ。
日常的にきものを着るようになって感じたのは、わたしが「きものらしさ」を何より強く感じるのは白襟(と白足袋)だということ。一方で濃い色の半襟は、タートルネックのニットやシャツの襟に近い雰囲気があって、和装と洋装との間にあるくっきりした違いを少し和らげるように感じる。洋装に「寄せる」のではない。ほんのちいさな面積だけれど、この三つの色は、現代日本での生活の中、わたしがきものを街着として気負わず着るための、強い味方になってくれている。
心待ちにしていた新作、「尖頭」が仕立てあがってきた。遠目にはシルバーグレイに輝く地色が、この三つの色に寄り添われて、どんな表情を見せてくれだろうか。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/