京都にいきなり冬が来た。昨日まで長袖シャツ一枚でもいいくらいの陽気だったのに、今日の北山には暗い雲が垂れ込めて、冷たい雨がぽつりぽつり。街を行く人の中にも、急にコートやダウンが目につき始めた。いよいよアウター必須の季節だ。
洋装も和装も同じだけれど、人は結局、「いちばん上に着ているもの」しか見ていない。「こんな感じのもの着てた人」という印象は、季節ごとの羽織だったりコートだったりで、どんなに素敵な紬を着ていようが、前帯にすばらしい刺繍があろうが、ましてやどんな帯結びをしていようが、良くも悪くもあんまり関係ないらしい。寒い時期には、アウターでほぼ全身を覆ってしまうからなおさら。だからこそ、冬のアウター選びは慎重になる。
さらに和装だとそれだけで目立つのに、羽織、道行コート、道中着等々は「きもの度」が高くて、着ているだけで「『お』きもの」になってしまう。わたしは羽織が大好きなのだけれど、帯付きでは寒いから着ているだけなのに、会う人に要らぬ緊張感が走ってしまうことがある。「羽織袴」というくらいで、きちんとしたいでたちの代名詞みたいなものだから仕方ないとは言え、甚だ本意ではない。そして、コートを着るほどではないけど冷える、という時に羽織では寒いし、仕事の席ならともかく、室内でリラックスするにはいささか堅苦しい。
そんな時に手が伸びるのはnonoのきものカーディガンEarl。以前このコラムに書いた羽織ジャケット/mindよりさらにカジュアルで、ビビッドな色が揃っている(現在計9色!)。濃い色の前あき7分Tシャツ襦袢 Ready7」同様、「あっ、きもの着てる人!!」という緊張感を和らげてくれると思う。
チクチクしない柔らかなリブニットのカーディガンは、「ちょっとそこまで」、「寒いな、もう一枚羽織ろう」という気安さで、「よそ行き」の堅苦しさはない。深いポケットがあるから、財布とスマホだけ持ってランチに行くとか、コンビニに走ったり、親しい相手とお茶を飲みにいったりするにもぴったりだ。きものは温かいけれどここだけはどうしても寒い、という首筋は前立ての厚手のショールカラーに包まれ、手首は洋装のカーディガンと同じつくりになっていて風を防ぎ、一枚でも本当に温かい。わたしは「普段着きもの」ということばをあまり好まないが、日常でリラックスして着られる、という意味で、これほどこの表現にふさわしいアイテムはない。
わたしはいつも黒ばかり着ているけれど、ふと羽織ってみたブラウンはGritterにもよく映って、初冬の街の景色に溶け込む。調子に乗って、元気いっぱいのピンクも欲しくなってきた。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/