31_nonoのアウター② 木枯らしの季節に。 (着物フリースハーフコート Free/キルトコート quilt)

 今、とても迷っている。

 着物フリースハーフコート Freeか、それともキルトコート quiltか。

 最新作のFreeには驚いた。何しろ、きものにフリース。しかもコートだ。

 手渡された一枚は想像よりずっと軽くて、見るからに温かそう。実際に羽織ってみると、温かさはもとより、軽さとすっぽりと包まれる安心感は想像以上。しかも、家で洗濯ができる。

 広げてしげしげ見ていると、だんだん楽しくなってくる。何、この素っ気なさ。何、この着心地の良さ。軽くてあったかくて気が置けなくて、きものだろうが洋装だろうが、つい手が伸びてしまうではないですか。装飾はまったくないし、着脱はジップアップ。生地が厚手なので、もたもたしないために少しだけ振りがつけてあるけれど、ここ以外に「きもの」を想起させるものは、ない。だから洋装に合わせても違和感がないし、老若男女を問わず、それぞれの似合い方で着られるだろう。nonoのアウターには必ずついている超実用的な深いポケットは、「ああ、寒っ!」と思ったら、手を入れるだけでほっとする温かさ。これもフリース素材ならではだ。

 片や、なかなかに攻めたデザインのquilt。コクーン型のシルエットは、若い時から愛しているいくつかのモード系ブランドからリリースされた、と言われても何の不思議もないし、むしろそういう洋服に合わせたくなる。それに前回書いたように、「人は結局、『いちばん上に着ているもの』しか見ていない」。着る人を選ぶスタイルだが、だからこそこのくらいエッジの効いたアウターを着物に合わせるのも楽しそうだ。Free同様とても軽くて、皺にもならない。少しメタリックな光沢がある表面のテクスチュアは、少々の雨雪なら平気。生地にはほんのりと紬を思わせるネップがあって、Freeとは違う方向で、つい手に取りたくなる。

 Freeと quilt、どちらにも襟はない。きもののコートの襟は意外と曲者で、襟元まで温かくと志向すると、どうしても衣紋のところがもたもたしてしまうものが多くて、せっかくのコートのデザインも、きもの自身にも残念なことがある。nonoのコートは潔くすっきりとノーカラーで、実は逆にこのほうが巻物(ストールとか、マフラーとか)の扱いが楽で、形もきれいに決まる。

 「良い服」とは「すきな服」「心地よい服」であって、和装であっても洋装であっても全然関係ないんだなと思う。着心地の良いおしゃれなアウター、というだけで必要かつ十分なのだ。

 さーて、どちらにしようかな…。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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