32_Home⇔Away

 迷った挙句、選んだのはキルトコート quilt。軽くて皺にならず、少々の雨でも平気。たっぷりしたシルエットなので、中に着こめるのがありがたい。昨今は冬もあたたかくなってきているから、インナーダウンのベスト(これは意外なほどきものコートの中で重宝する)を重ねると、真冬でも充分暖かい。エッジの効いたデザインは洋服にも似合うから、ボリュームのあるニットも、アウターに悩まず着られる。極太の毛糸で編んだ、イタリアのニットのストールに合わせて、上機嫌で冬の京都を歩いている。

 このコートを筆頭に、これだけクリエイティブな商品をコンスタントに発表し続けているのに、nonoが外部の展示会へ出展する機会は数えるほどだ。会場がnonoの入っているマスギビルであればまだしも、歩いて数分の場所であっても、だ。直接販売は、基本的に店舗とネット通販。商品は主にさまざまなショップに卸されて、それぞれのお店のテイストの中で販売される。

  実はnonoの「裏コンセプト」に、「ここから出ない=Home」ということがあるという。どんなに近い会場であっても、展示会に商品のすべては並べられない。「ここにはないけど、店にはあるんです」とか、「他にもこんなものがあるんです」という話はあまりしたくないんです、と社長の上田さんは言う。全部見てもらえればもっと違う提案もできるし、別の商品も紹介できる。自分たちが全力で作ってリリースしている商品を最大限の出力で見せたい、見てほしいからこそ、アウェイ(展示会等)ではなくホームで勝負したいのだという。nonoはやはり、「Kimono Factory」=「きものの製作所」なのだ。

 nonoの商品を始め、今年もたくさんのきものを楽しんだ。が、夏の暑さが気温も期間も尋常ではなかったこともあり、年間で200日着た去年のように、何があってもきもので、という気持ちはいささか挫けてしまったきらいはある。が、その分、きものとも洋服とも、あらためて良い距離感で向き合えたように思う。気づけばクローゼットには、長羽織と羽織ジャケット mindとトレンチコートが、タートルニットとTシャツ襦袢 Ready7が、そしてダウンジャケットとキルトコート quiltが、並んで掛かっている。

 来年はまた、わたしときものとの新しい景色が広がるのだろう。皆さま、どうぞ良いお年を。


奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。

岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/

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