わたしが欲しい羽織はどこにあるんだろう。シンプルな色柄で、少々の雨風は凌げる扱いやすい素材で、ラインのきれいな羽織。お誂えからリユース、既製品、果てはアンティークまで「きもの沼」を徘徊しても望みのものは見つからず、欲張りなのは承知の上で、nonoで羽織ジャケット/mindを試させてもらうことにした。
薄手でさらっとした生地は、程よく落ちてシャープな線を描く。無機質な質感のユニセックスデザインだが、女性が襟を抜いて着ると背中にやわらかな緩みが生まれる。ボタンで留まるので羽織紐なしでもOK(羽織紐用の「乳」もついている)、襟を折り返して着なくても良い(折る着方もできる)。気に入ってそのまま着て帰った。
シンプルで手持ちのきものあれこれに合わせやすい上、雨が心配で着られない、ということもない。しかもボタンやポケットは実に機能的だ(裾が風に煽られてもボタンで留めると手が空くし、深いポケットからスマホがすぐに取り出せる。心の中で何度、「わかってるなー!」とつぶやいたことだろう。)
mindを着ているうちに、自分の中で「きもの」について明確に言語化できたことがある。それは、
「わたしが日常で着るきものに求めるのは、『おしゃれ』であって、『おめかし』ではない」。
…ということだ。当たり前で、かつ些細なことのようだが、わたしには大発見だった。
今、きものの楽しみ方のほとんどはおそらく「おめかし」寄りだろう。mindを着ていると、いわゆる普通の「羽織」はそれ自身がかなり「おめかし」=晴れがましい気分を帯びていることがよくわかる。体の前、左右の襟の間から縦長にのぞく見せ場、「半襟+きもの+帯揚げ+帯+帯締め、それに羽織紐」のコーディーネートなんて最たるものだ。これがきものの醍醐味なのはそのとおりで、わたしもイベントや華やいだお出かけのための装いには、あれこれとっかえひっかえして楽しく悩むが、日々繰り返し着るもので「おめかし」していては身が持たない。一方、例えばdateを締めてその上にmindを羽織ると、モノトーンの間にツートンカラーの立体的な結び目がくっきりと印象に残る。わたしの日常はこれで充分、というよりこっちが良い。
「おめかし」はたまにでかまわない。でも、いつでも「おしゃれ」でないとイヤなんです。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/