わたしの食器棚に「とっておきのカップ&ソーサ―」はない。代わりに、吟味して少しずつ集めてきたマグカップがいくつか並んでいて、この中からとっかえひっかえ毎日使っている。どれも掌になじんで使いやすい。とりわけ愛用しているのは、旅先の金沢で見つけた手作りのガラスのマグカップだ。透明な耐熱ガラス製で、縁から下へミルクが溶けたようなグラデーションがかかり、表面のランダムな凹凸に表情がある。軽くて丈夫で扱いやすく、どんな飲み物の色も映える。口当たりが柔らかで、熱いものも冷たいものも美味しく感じられるので、つい登場回数が増えることになる。しまい込んで、たまに恐る恐る使ったりしない。
使い勝手の良い「ええもん」をいつも手の届くところに置き、特別扱いしないで日常的に使う喜びと楽しみ。nonoの新しいdate(帯地バージョン)の使用感は、このマグカップと同質のものだ。
今回リリースされた中でわたしと「目が合った」のは、黒い博多織の生地に、シルバーの繊細なラインが描かれた「波紋 黒銀」。本体の帯地がより映えるように、両端についたスウェードのリボン部分は従来のタイプより細くなっていて、これが帯締めのように効いている。dateの機能性と快適さはそのままに、ちょっと良い紬や小紋にもよく映る。帯を生かすコーディネートで主役も張れるし、華やかなきものの渋いバイプレーヤーとして黙っていることもできる。ましてやGritterとの相性は言わずもがなで、毎日この組み合わせで着たくなる。
このdateやReadyのシリーズ、そしてGritter。さっさと短時間で着られる、コツが要らない、気軽に自分で洗える、なのに「シュッとしている」。どれも「初心者のハードルを下げるのに最適!」と思っていたが、何も初心者に限らない。むしろ、一周まわって着慣れた人にこそ、その恩恵と魅力がより実感できるのではないだろうか。
数日前の寒い朝、自然に新柄のGritterと帯地dateに手が伸びた。「めんどくさいから、きものにしよう」。無意識にそう考えていることに気がついて、自分でちょっとびっくりした。
ビギナーのころ、「いつか、クローゼットのワンピースの隣にきものを並べたい」と思ったものだ。野望(無謀?)のようなこの憧れがほんの少し、実現したような気がしている。
奈良女子大学文学部を卒業後、美術印刷会社の営業職、京都精華大学 文字文明研究所および京都国際マンガミュージアム勤務を経て、2015年に独立。岩澤企画編集事務所を設立する。
ライター業の傍ら、メディアにおける「悉皆屋さん」として様々な分野で活躍中。
30歳のときに古着屋で出会った一枚のスカートをきっかけにモード系ファッションの虜となり、40代から着物を日常に取り入れるようになる。現在、病院受診と整体治療のある日以外はほぼ毎日、きもので出勤している。
岩澤さんブログ「みみひげしっぽ通信」
http://iwasawa-aki.jugem.jp/